Build New Local Google News Initiative

「和歌山スタディ・ワーケーション~農業改革・関係人口とイノベーションの創出~」への取り組み

紀伊民報
2024年04月10日 15時59分

Build New Local 2021 の受賞に続き、Build New Local 2022の受賞もした紀伊民報。仕事の環境を変えることで創造力を養ったり課題解決につなげたりする「ワーケーション」と、その学生版である「スタディケーション」の情報を発信するポータルサイトを構築。第1段として「梅の収穫のスタディ・ワーケーション」を実施した。課題、今後の展望について紀伊民報にお話を伺いました。

大学生を対象に「スタディケーション」を実施

 ワーケーションは、ワーク(仕事)とバケーション(休暇)を組み合わせた造語です。個人型のワーケーションは休暇中に旅行先で仕事をしたり、環境のいい場所に出掛けて非日常の中で仕事をしたりするといったイメージです。一方で企業型のワーケーションは、社員と地域の人が交流しながらその地域の課題を解決することで人材育成につなげたり、企業が社会貢献をしたりすることが目的となります。

和歌山県は早くからワーケーションに着目し、 2019 年 11 月には長野県と共同で全国の自治体に呼びかけて「ワーケーション自治体協議会」を設立しました。協議会には 2023 年 9 月現在、 216 団体( 1 道 25 県 190 市町村)が加盟しています。

紀伊民報の取材・購読エリアである紀南地域は、温泉や世界遺産・熊野古道などの観光資源に恵まれ、特に白浜町は東京・羽田空港から空路でわずか 1 時間という地の利もあって「ワーケーションの聖地」という評価も得ています。

そういった中で紀伊民報は、ワーケーションのマッチングビジネスに取り組むことにし、まず人手不足・後継者不足が深刻な農業分野に絞って、テストマーケティングを実施しました。対象は、農業を応援する大学生。学生が学びながら地域の課題を解決する活動を、スタディケーション(学びと休暇の造語)と名付けました。

地域の課題を「梅」に絞り込む

 和歌山県は梅の生産で全国の 6 割を占め、さらにそのうち 8 割をみなべ町や田辺市など紀南地域が占めています。生産と加工が一体化して大きな地場産業を形成しているのが特長です。一方で農業の現場では、過疎化・高齢化による人手不足が年々深刻になっています。梅の収穫は 5 ~ 7 月の 3 カ月間に作業が集中。農家からは「農繁期の人材確保が難しい。 JA のあっせんに申し込んだがだめだった」、「JA の組合員が高齢となり、今後ますます人手不足は続くだろう」といった声が出ています。

田辺市など 5 市町を管内に持つ JA 紀南は梅の収穫時期に農家からの求人を受け付けていますが、とても要望の人数を集めることはできません。そこで JA 紀南と共同で、大学生の農業体験と農家の人手不足をマッチングする「梅収穫スタディケーション」のテストマーケティングを実施しました。当地域との関係が深い和歌山大学と連携。同大学の「紀伊半島価値共創基幹」を窓口に参加の学生を募りました。

同大学には、農家の手伝いをしながら地域の人たちと交流する「 agrico. (アグリコ)」という援農サークルがあります。実施時期は、梅の収穫終盤の 6 月 17 (土)・ 18 日(日)、 24 日(土)・ 25 日(日)。今回の呼び掛けには男女 8 人が 2 グループに分かれて参加してくれました。

学生を受け入れた農家は、約 2.5 haの園地で梅を栽培しています。学生が手伝ったのは、梅の根元に落ちた完熟梅を拾い集めて選果する作業。炎天下での農作業は重労働ですが、参加の学生は「農家の方々と話をしながら収穫ができたので、梅の実情や情報を知ることができてとても良い体験になった」と感想を話しました。

交通費、宿泊費が課題に 参加学生が発表・交流会

 テストマーケティングに続いて、梅の収穫作業を体験した学生と関係者が集う発表・交流会を 8 月に開き、約 30 人が参加しました。

学生らは「農作業だけでなく、観光する時間などを組み合わせることで、この取り組みは広がっていくのではないか」、「農家の方を尊敬する気持ちが高まった」と評価。「現地までの交通手段は今後考えていくべき課題だと感じた」などと話しました。

実際に学生を受け入れたことで課題も見えてきました。梅の収穫時期に当たる 5 ~ 7 月は授業の関係で週末しか参加できないことや、大学のある和歌山市と田辺市が約 80 km離れていることから、宿泊や交通手段の確保に費用がかかることなどです。和歌山県南部に大学はなく、和歌山市や大阪府、東京などから学生を招く必要があります。

学生はボランティアとして参加するので金銭は受け取りません。農家が支払う「謝金」は宿泊費や交通費などに充てますが、短期の作業では経費をまかない切れないのが実情です。

JA 紀南指導部は「今後、協力いただける大学を広げ、将来的には梅の収穫時期に途切れることなく学生が産地に入ってもらえるような環境をつくりたい」と期待。これに応える形で、和歌山大学経済学部の担当教授は、大学間のネットワークづくりを進める考えです。

「和歌山スタディ・ワーケーション」のコンテンツ開設

 梅収穫スタディケーションと並行して、和歌山県内でワーケーションのコーディネーターを務めている TETAU (てたう)事業協同組合と協働してスタディ・ワーケーションの特設サイトを 2023 年 12 月に立ち上げました。独立したポータルサイトを設ける案と、ニュースサイトとして月間 200 万ページビューの閲覧がある AGARA のドメインを生かす案の二つを検討。 IT コンサルタントのアドバイスなども受け、 AGARA の配下にコンテンツを構築しました。

和歌山県のワーケーションについて、 TETAU からは次のような指摘がありました。
1 ) 2017 年当時は和歌山県がワーケーションの先進地だったが、その後コロナ禍で下火になり、 2023 年になってようやく需要が戻ってきた。
2 )ワーケーションは、その語源である「ワーク」と「バケーション」(観光地で仕事をすること)で捉えるのではなく、フリーランスや企業などのニーズで捉える必要がある。
3 )ホテルや旅館などが行政の補助金を活用してテレワーク用の客室をつくったり設備を整えたりしているが、せっかくの施設をどう生かしたらいいか分からず相談されることが多い。
4 )社会が多様化し、企業は今まで通りの枠組みで仕事をしていてはだめだと気づき始めた。社員の意識改革にワーケーションを活用する機運が高まっている。
5 )自然環境や健康を大切にしているといった企業イメージをつくるためにワーケーションを取り入れる事業者が増えている。

これらを踏まえて、特設サイトのコンテンツ制作を TETAU に依頼。「ワーケーションとは何か」という解説記事と白浜町内の受け入れ施設 6 カ所を紹介しています。これらの情報を県内外に発信して効果を測定。記事体裁広告のノウハウを蓄積して営業収益に結びつける計画です。

受け入れ大学を拡大

 24 年度は、参加の大学を増やすとともに、多様なスタイルでの受け入れを目指します。大阪府内の大学 2 校に学生の派遣を打診するとともに、横浜市内のNPOを経由して学生を受け入れる事業も具体化してきました。

本年度のテストマーケティングでは学生の宿泊にリゾートホテルを利用しましたが、学生からは、合宿形式や農家民泊などで地元の人との交流を図りたいという意見が出されています。

また、学生の参加日程が授業の関係で週末に限定されることについて、今後、ゼミの一環として取り組んだり、農業体験を授業の出席に含めたりするといった大学も出てくる可能性があります。

スタディケーションが農業の人手不足を解消する一助になるという地域貢献の道筋は見えてきました。しかし事業の継続に不可欠な収益化は不十分です。ワーケーション・スタディケーションの市場を活性化し、記事体裁広告の販売や、新聞紙面と連動した企画広告の展開などにつなげたいと考えています。

文責:紀伊民報マルチメディア事業部