Build New Local Google News Initiative

新聞社がホタルイカ?!兵庫県にホタルイカ?!

神戸新聞社
2022年10月13日 11時00分

2021年に開催された「Build New Localプロジェクト」ビジネスアイディアコンテストにて、「~生産者と消費者をつなぐ物流に付加価値を~ 地域物流で地域活性化プロジェクト ひょうごとれたてフレッシュ便」というアイディアをエントリーし、「特別賞」を受賞された神戸新聞社。コンテスト終了後、ビジネスの実装に向けて、様々なパートナーを巻き込み、テストマーケティングを重ねられてきた中で、本プロジェクトを通じて得られた成果や気づきについて、神戸新聞社様にお話をしていただきました。

新聞社がホタルイカ?!兵庫県にホタルイカ?!

「生のホタルイカ運び販売 神戸(新聞)、イベントで漁協と協力」
 深夜に水揚げされ競りにかけられたばかりのホタルイカを、朝刊輸送後に夕刊輸送まで使われない新聞輸送のトラックで集荷。日本海側に位置する新温泉町・浜坂から車で約3時間離れた都心の神戸・三宮エリアで販売した弊社の企画が、2022年5月10日付けの業界紙「新聞協会報」で報じられました。
 ホタルイカ漁や漁業振興に努める浜坂漁業協同組合、地元の水産業に熱意をもって支援する新温泉町農水産課、地元の食品販売企画を支援するワールド・ワン(株)、読者に新聞が必ず届くよう日々物流を担う(株)神戸新聞輸送センターとの連携でできた実証事業です。
 兵庫県の日本海に面した浜坂がある但馬エリアは、ホタルイカ水揚げ量日本一にもかかわらず、産地としてあまり知られていません。ブランド認知の高い富山県にあるホタルイカミュージアムでは「ホタルイカで有名な富山県ですが、漁獲量1位の座を兵庫県に譲ることがあります。」と、業界では競り合っているのにです。浜坂では、味と鮮度を保つ「プロトン凍結」の技術導入、「漁獲量日本一」とうたう商品パッケージの制作、コロナ前はホタルイカまつりを開催するなど努力を重ねられているのですが、神戸近郊のスーパーでよく目にするのは富山産でした。
 このように漁師・漁協・地元行政の努力に見合わない認知度のホタルイカをわたしたち営業担当は新聞記事から知り、早速記者から各取材先の了解を得て、順次ヒアリングや企画の調整にかかりました。3月27日の特集掲載からわずか1カ月後の4月22・24日に事業ができ、180㎏以上の生のホタルイカを完売させたのが第1回の成果です。

「輸送」すら人・情報・モノ・体験をつなぐ「メディア」だった。

 新聞輸送のトラックは県内輸送が中心で、既存の運送会社に比べるとトラックが使える時間帯やエリアに制限があります。保冷機能もなく、新聞が濡れないよう水濡れも厳禁です。
 ではなぜ、利活用するには制限の多い新聞物流網を活用することが、認知度の低いホタルイカ完売につながったのか。第2回実証実験との比較から、自社媒体の情報発信と組み合わせたからだと考えられます。
 というのも、第2回実証実験で「香住ガニ」を運んだ際には、紙面特集も事前告知もありませんでした。県内の酒蔵があつまるイベント「HYOGO SAKE EXPO」の試食企画として、多くのイベント来場者・消費者に召し上がっていただきました。来場者や特別ゲスト登壇イベントのコンテンツとしては盛況だった一方で、ホタルイカの時のように「香住ガニ」や「神戸新聞輸送センター」がフックとなる事後報道は無く、HYOGO SAKE EXPOに関する報道にとどまりました。
 来場者アンケート等からみても「輸送過程にわざわざ興味を持つ人は少ない。何の違和感もなく手に取れる方が“普通の感覚”」という当たり前の現実を突きつけられました。つまり、輸送網と自社媒体の組み合わせの付加価値や社会性、新規性の高い情報発信にこそ地方紙ならではの強みがあり、共感やニーズを生みだすことが出来るということです。
 改めて、わたしたちは地域の人やモノ、情報をつなぐ「メディア」企業であり、輸送網までもが新たな情報・モノ・体験を届ける「メディア」となったことにおもしろみを感じると同時に「地域のメディアである」という本質を忘れないことがカギだとわかりました。

新聞製造業というものづくり産業の構造をデザインしなおす。

 第3回実証実験は南あわじ市からフェリーで10分に位置する沼島(ぬしま)でとれる「ぬしま鰺」で企画中です。弊紙7月31日朝刊付で特集され、前回と同様に、記者から産直部の漁師とつながり、神戸の老舗ホテルにある和食割烹料理店の協力のもと試食・品評会を企画。産直部のBtoB販路拡大支援として企画しています。
 事前の市場調査、関係者ヒアリング、企画案たたき台作成、ターゲットとコンテンツの見極めやブラッシュアップで企画書作成し提案。まさにジャーナリストの事前情報収集、現地取材、言語化、そして情報の優先順位を配置し、紙面化するまでの過程と同じです。無実績の事業にもかかわらずスピード感もって進められた要因だと考えられます。
 初対面からお互い必要以上に身構えないコミュニケーションがとれ、こちらも最低限の事前知識がある上で相談に伺えたため、費やした時間以上に相手の状況を把握できたのではないかと思います。同時に、私たち営業担当と長年付き合いのある老舗ホテルのビジネスマンの方にも、各関係部署にかけあっていただきました。
 つまりジャーナリストならではの人間・信頼関係と、ビジネスマンならではの人間・信頼関係がかけあわさって事業が進んだと言えます。この人間関係の網合わせから、もう少し「会社の制度」に固執しすぎない部署横断環境に地方紙も変わっていければと思いました。新聞製造業という「ものづくり産業」ならではの分業構造を抜本的に変えることは難しいことは重々承知ですが、つねに社会も人のニーズも変わる今、次の25年、50年も地域のメディアであり続けるために、新聞社の組織文化と構造を同時にデザインし直し続ける必要があると、本実証実験を通じて考えさせられました。

地域密着のビジネスと生活を続けるには

 「地域のメディアであり続ける」とは。
 端的に「アウトプットをし続けること」だと思います。では企画・営業の「アウトプットし続ける」とは。まさに現地に飛び込み、情報化されていない「情報」に自らアクセスし、地域にもう一歩、もう十歩踏み込むこと、そしてたくさんの人に「取材」し、一番に実践しはじめられるかだと思います。そしてそれらが実際にできる環境にあるのが地方紙営業の強みだとも思われます。
 幸い、社内の同期の記者とのお茶話ですら、現地担当記者かつ住民でないと知りえない情報が手に入ります。日頃から担当地域で信頼関係を築いているからこその「ここでの生活の当たり前」情報です。気心しれた同期との何気ない楽しい雑談から地域密着情報を聞けるのは、新聞社員でなければできない網とセンサーです。ルーチン会議の「情報共有」の何十倍にも説得力があります。彼らが日々現地で人間関係をつくり、執筆のため日々情報を集め、日々そこで暮らしているということがまさに、次世代の地域資産となる企画に生まれ変わる可能性そのものです。
 どれだけデジタルトランスフォーメーションが進み、情報伝達が早く効率的に進んだとしても、記事や報告書の行間をどう読むか、行間を読み取るための経験や情報、配置方法が自分にあるのか、常に考えさせられ企画実施と学びの環境に地方紙が置かれているのだと本事業をもって経験を積ませていただきました。

弊社地域パートナー宣言「もっと一緒に」とBNL

 「新聞社は職種のデパート」「地方紙は地域密着のネットワーク力がある」「百数十年培った地域での信頼力」と、いにしえからの呪文を無批判に唱えていては、時代と人のためのあわせたトランスフォーメーションもできなくなってしまいます。これまでの積み上げの延長に事業が位置づけられると同時に、この120余年間の延長に付加されたわずかな差異を認識できる「ことば」と、伝える「ふるまい・行動」の両方を持ち合わせているかどうかが、地方新聞社ならではの「Build New Local」ではないかと気づかされました。
 世界的な行動指針「SDGs」、「脱炭素」や「フードロス解決」のような「理解しやすい」課題は、課題の表層でしかありません。
 そんな「わかりやすさ」のもう一歩先に踏み込めるか、「誰が」「誰と一緒に」「誰のために」その課題を解決するのか、またその課題のカギはそもそも何なのかを考えかつ試す。弊社地域パートナー宣言「もっと一緒に」を合言葉に、そんな過去を踏まえた未来志向でつねにすでに“Building” New Localをする神戸新聞の文化を社内外で広げたく思います。
 最後に今回、このような学びと実践の機会をご提供くださった関係各社の皆様に御礼申し上げます。

文責:神戸新聞社 メディアビジネス局・デジタル推進局