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高校でのテストマーケティング、教育向けのセミナー実施。実装に向けた今後の課題とは。

紀伊民報
2022年11月24日 11時00分

高校の「探求学習」をサポートする事業の実装を目指す紀伊民報社。 今回の記事では、地元・和歌山県の高校で実施したテストマーケティングや、探求学習を教える側の高校教員を対象としたセミナーの実施報告をして頂き、そこで見えてきた成果や気づき、そして今後の事業展開に向けた課題についてお話して頂きました。

1.高校でのテストマーケティング

「GIGAスクール・地域学習・探究学習を対象としたデジタル教材と情報共有ツール」の実装に向けて和歌山県立南部(みなべ)高校をモデル校に指定し、2月期からテストマーケティングを始めました。対象の生徒は5クラス計105人。ベネッセの学習教材「探究ナビBasic」と紀伊民報電子版のIDを無償提供しています。

「総合的な探究の時間」には教科書がないので、現場の先生方には「どのように授業を進めたらいいのか分かりにくい」という戸惑いが大きいそうです。「探究ナビ」は、学校全体の共通テーマ設定や授業コマ数の割り振り、情報収集の方法や発表形式をどうするか、など具体的な指導方法が記載されています。

テストマーケティングを前にした8月下旬、1年生を担当する教員10人と、ベネッセの探究ナビ編集者や学習指導者を交えてオンラインミーティングを開催しました。学校側からは「生徒が働く力を身につけ、地域とつながることをテーマにしたい」と学習目標が示されました。これに対してベネッセからは「自分で情報を集め、解決することが生徒の働く力につながる」というアドバイスがあり、授業時間の割り振りについても具体的なすり合わせをしました。

授業は10月28日から始まりました。「和歌山魅力発見」をテーマに据え、生徒がグループごとに地域の魅力や課題を話し合い、その解決方法を考えていきます。紀伊民報からも講師を派遣し、インターネットを利用して正確な情報を入手する方法や著作権についての注意事項、紀伊民報電子版の有効な利用方法について教えました。

「探究ナビ」については「学習の道筋がはっきりし、ゴールが示されているので授業を組み立てやすい」という評価をもらいました。半面「教師のオリジナリティーが出しにくい」という意見もあるそうです。
【探究ナビBasicを活用した授業(和歌山県立南部高校)】

【探究ナビBasicを活用した授業(和歌山県立南部高校)】

2.小学校の授業にデータを活用

田辺市立秋津川小学校で、学習情報をデータベースに登録する授業を10月に2つ実施しました。国立国会図書館が運営する総合学術データベース「ジャパンサーチ」を利用した郷土学習と、和歌山県のオープンデータを活用した防災学習です。スプレッドシートに学習内容を記入してアップロードするという簡単な作業をするだけで、小学生でもデータを登録・公開できることを確認しました。

郷土学習は、複式学級の3~6年生7人が、「知の巨人」と呼ばれた博物学者・南方熊楠(1867~1941年)について学びました。ジャパンサーチには、熊楠が残した膨大な資料の一部、約2200点が登録されています。児童は、国会図書館の職員からジャパンサーチの使い方を教えてもらったあと、熊楠の生涯について研究家から話を聞きました。そこで興味を持った事柄についてジャパンサーチの資料を検索。自分の意見を添えて学習成果をまとめました。

学習の様子や成果は、南方熊楠顕彰館のホームページにある「学びの広場」(https://www.minakata.org/manabi/)に近く掲載される予定です。田辺市は熊楠の顕彰活動に力を入れていて、市内の全児童が副読本を読んで熊楠について学んでいます。今回のオープンデータを活用した学習には田辺市教委も注目しています。

防災学習は、和歌山県が公開している「和歌山県避難先情報一覧」を活用しました。校区内の避難先をオープンデータで調べた上で、実際に施設を訪問。どんな備品を備えているのか、公開されているデータ以外に必要な情報はないのか、などを調べました。学習の成果は紀伊民報のウェブサイト(https://www.kiilife.jp/school/akizugawa-es/2022/bosai/)で公開しています。
【南方熊楠の研究者からオンラインで授業を受ける児童(田辺市立秋津川小学校)】

【南方熊楠の研究者からオンラインで授業を受ける児童(田辺市立秋津川小学校)】

3.教員向けセミナーを開催

テストマーケティングと並行して10月29日には、高校教諭を対象にした地域学習セミナー「公開データを活用した地域連携のあり方を考える」を和歌山県情報化推進協議会(WIDA)と共催で開きました。探究学習について教員に理解を深めてもらうのが目的です。会場とオンラインのハイブリッドで開催し、教員や教育関係者、自治体職員、IT企業などから約40人の参加がありました。

公的な統計データなど一般に公開されているデータを教育活動に活用するポイントや、地域と連携した探究学習の組み立てなどについて専門家がアドバイスしました。

授業改善や情報通信技術(ICT)のアドバイザーとして全国で活動している「授業デザイン研究所」代表の三浦隆志さん(岡山市)は高校教育で情報を活用する能力が重視されていることや、探究学習はその能力が発揮できる場であると話しました。和歌山県データ利活用推進センター長の稲住孝富さんは、公開データを授業に使うためのツールを紹介した上で、データの見方や分析の仕方などについて気軽に相談してほしいと呼びかけました。ベネッセコーポレーションの馬渕直さんは探究学習について、生徒の興味・関心に基づいてテーマを設定すること、成果だけでなくその過程も評価して生徒が自身の成長を実感できる振り返りの機会を設けること、担当教員だけでなく組織を設けて校内で情報共有すること、各分野の専門家など地域の人と連携して進めることなどをアドバイスしました。

WIDAからは同様の教育セミナーを来年度以降も継続して開催していきたいという要望があり、事業の一環として検討していくことになりました。
【高校教員を対象にした地域学習セミナー(和歌山県立情報交流センター)】

【高校教員を対象にした地域学習セミナー(和歌山県立情報交流センター)】

4.今後の事業展開と課題

営業活動は大きく二つに分かれます。一つは、まとめサイト「みんなの学習ひろば」へのデータ登録促進、もう一つは収益化のための広告セールスと教材販売です。

収益化についてはまず、有料電子版と探究ナビをセットにした教育教材の採用を地元6高校に働きかけます。「みんなの学習ひろば」や紙面特集への広告出稿は、各学校のOBが関係している企業やJAなど公益的な団体を対象にセールスします。

学習成果の発表の場を設けることについては多くの学校から「児童・生徒にとって学習の励みになる」と評価されており、授業の支援も含めてデータ登録を働きかけます。今回のデータベースは、登録した学習成果をオープンデータと位置付け、無料で開放するシステムとします。活用の場合にはどうぞお声がけください。

このほか、教育関係へのアプローチとして、市町村教育委員会に有料電子版の採用を働きかけることを計画しており、データベースや電子版の利用促進で先行している地域新聞社との情報交換も予定しています。

一方で紀伊民報は、取材・購読エリアが和歌山県南部に限定されているというハンデがあります。カバー人口は約15万人で、県人口(約92万人)の16%にとどまります。和歌山県には全県をカバーする県紙が無く、紀伊民報を含めて地域紙5紙がそれぞれのエリアで活動しています。教育向け記事データベースの利用を働きかけるには、空白の地域をどうするかも課題となっています。
【和歌山県立南部高校】

【和歌山県立南部高校】

文責:紀伊民報マルチメディア事業部