Build New Local Google News Initiative

自分で自分を創る力を、子どもたちに。

埼玉新聞社
2022年12月08日 13時00分

Build New Local準備室という専門部署を立ち上げ、「じぶんデザイン ひと、育つ、埼玉。自ら未来を創る、心豊かな人を、埼玉から」の実装を目指す埼玉新聞社。 今夏に実施したテストマーケティングを通じて、地元企業とともに、社会の「リアル」を子どもたちに伝え、参加者や協力企業に本事業への期待や改善点などを調査。 来年4月の開校に向けて、どのような動きをされているかをお話頂きました。

社会の「リアル」を伝えること

 今夏に実施したテストマーケティングのひとつ「県産品×パンで地域おこしストーリー」。パン屋さん開店までの過程で、埼玉県産の狭山茶を生かした商品開発からお金の流れを学び、最終日にマルシェで販売会を開くという内容でした。4時間/日×計4日間の構成で、小学4年生~中学1年生の男女7人が参加。学年も地域も違う子どもたちが一堂に会して、「狭山茶の消費拡大」という地域課題の解決に取り組みました。

 初日は「狭山茶を知る」。日本茶の製造・卸販売を手掛ける「矢島園」(上尾市)で、狭山茶の歴史や煎茶の淹れ方、6次産業化の可能性を学びました。新商品の企画会議では、会場に並べられた約50種類の食材・調味料から、狭山茶に合うと思ったものを選び試作品を考案。伊奈町のパン屋「ラッキーズ」のパン職人からもアドバイスをもらいながら、最後は全員の前でアイデアや商品名などを発表しました。

 2日目は「埼玉の小麦を知る」と題し、フードコンサルタントの「中村フードサービス」(加須市)が、埼玉の小麦文化やパン作りの極意を伝授。初日に考えたアイデアに磨きをかけるべく、生食パンのテイクアウト専門店「埼玉縁結」(さいたま市北区)のパン職人にも協力を仰ぎ、細かいレシピなど熱心に意見を交わしました。続いて商品POPの作成にも挑戦。デザイナーからアドバイスを受けながら、商品の特長をイラストやキャッチコピー、文章にして、手書きで画用紙に落とし込みました。

 今回の体験プログラムで一番大切にしたのは、地元企業とともに社会の「リアル」を伝えること。アイデアを生み出す楽しさはもちろん、商品化することの難しさや生産者の思い、消費者目線の考え方など、実社会に近い形での運営で、大人と子どもたちが真剣に向き合える環境づくりを意識しました。

笑顔と感動の最終日

 3日目の「お金の仕組みを知る」は、埼玉りそな銀行(さいたま市浦和区)と同行のグループで、地域課題解決を支援する地域デザインラボさいたま(ラボたま)(同)が担当。独自に開発した「お店開店ゲーム」を使い、店舗経営のノウハウを学びました。子どもたちはパンの仕入れ数や目標販売数、販売価格を設定。銀行員役のスタッフに融資相談に行き、借りたい金額や店舗運営の方針を伝えました。販売シミュレーションでは、変化する条件に応じて、より多くの販売個数を決めたり、価格調整を行うなど戦略を立てていました。最後は子どもたちだけで話し合い、最終日に販売する商品の価格を決定しました。

 迎えた最終日は、複合施設「Bibli」(さいたま市大宮区)でのマルシェ出店。「狭山茶を使ったオリジナルのパンはいかがですか」と、商品POPを手に持ちながら、大きな声で呼び込みを続けました。小雨が降る厳しい状況にもめげることなく、約2時間で予定個数の65個を見事完売。子どもたちは「やったー!」と満面の笑顔を見せ、これまでの頑張りをたたえ合っていました。総括として、オリジナルの埼玉新聞に4日間の感想を書き、一人ずつ発表。子どもたちの成長した姿に、見守っていた保護者の方々は思わず涙を流すなど、笑顔と感動に包まれた体験ストーリーとなりました。

テストマーケティングで見えた可能性

 テストマーケティング終了後、9月中に参加者および協力企業への事後インタビューを実施。参加してみた感想をはじめ、本事業への期待や改善点、顧客自身の属性など、多岐にわたる内容を聞き取り調査しました。

 参加者・保護者からの意見として最も多く挙がったのが、「将来に役立つ学びだった」という回答です。「初めて会う人と仲良くしたり、人前に立って自分の考えを発表することは貴重な体験」、「家庭や学校では見せない根気強く取り組む姿に驚いた。本人にも自信になったはず」、「アイデア創発で終わらせず、お金の流れから商品販売のアウトプットまで実施したことが、差別化になると感じた」などの反響をいただきました。

 協力企業からは、「企業間のお付き合いではなく、『ビジネス』として本気で取り組む姿勢に感銘を受けた」「子どもたちから地域を変えるきっかけが生まれると実感した」という好意的な内容が多かったです。

 運営側の埼玉新聞社としては、子ども相手だからといって目線を下げず、社会の「リアル」を伝えることが重要だということを再認識しました。そして「体験を通じた学び」は、教育熱心な保護者の心を掴んだ一方、フリースクールに通う子どもたちの受け皿になっていたことも分かりました。

 今回の検証結果から、質の高い教育を求める家庭に対して、一定の需要があるという判断をしました。その上で2023年4月から本格稼働することが、社内の経営会議で承認され、開校準備を進めることが決まりました。

本気の挑戦で新たな収益の柱へ

 現在は来年4月の開校に向けて、本事業の核となる「体験ストーリー」の構築に着手しています。農業や伝統工芸、プログラミング、国際交流など、日常生活に関わる様々な視点から、主に自社の地域面に掲載している記事をもとに地域課題を抽出。県内の有識者と連携を図りながら、準備に取り組んでいます。同時にホームページの更新や広告の運用方法、実施体制の見直しも進めています。

 さらに県内の企業団体からの支援を広げようと、財団法人の立ち上げを検討中です。財団に集まった寄付金は、本事業の一部金銭負担や子どもたちの潜在能力を引き起こす「キッズビジネスアイデアコンテスト」の開催、県内のフリースクールやNPO法人への助成など、埼玉の子どもたちのために貢献できる体制を目指していきます。

 将来像としては、新聞社における既存の収益構造である販売、広告、WEB収入に並ぶ、埼玉新聞社の「新たな収益の柱」に成長することを目標に掲げています。

 実装化に向けた準備期間の中で、私たちは地域で活躍する多くの方々との出会いがありました。皆様が特に共通していたことは、未来の埼玉に向けて何かアクションを起こしたいという「情熱」、そして本事業がそのきっかけになるかもしれないという「期待」です。

 「じぶんデザイン~ひと・育つ・埼玉」プロジェクトは、埼玉新聞社単独で出来るものではありません。未来を担う子どもたちのために何ができるのか。本事業の輪が埼玉で少しずつ広がり始めている中で、地域を巻き込み、ひとつの目標に向かって、大きな流れをつくることこそ、これからの地方新聞社の役割ではないかと考えます。

 「自分で自分を創る力を、子どもたちに。その人は、やがて地域社会に活きる。自信と尊厳を持って」―。この思いを胸に刻み、埼玉新聞社では10年、20年先を見据えた本気の挑戦をスタートします。

文責:埼玉新聞社クロスメディア局地域創生部Build New Local準備室