Build New Local Google News Initiative

「GIGAスクール・地域学習・探究学習を対象としたデジタル教材と情報共有ツール」の実装に向けて

紀伊民報
2022年11月01日 12時00分

2022年度から始まった高校の「探求学習」をサポートすべく、「GIGAスクール・地域学習・探究学習を対象としたデジタル教材と情報共有ツール」というアイディアをエントリーし、優秀賞を獲得した紀伊民報社。本アイディアをエントリーをした背景には、加速する「若者の県外流出」をなんとか食い止めたいという想いがありました。発行部数は30,000部、社員80人と小さな新聞社が、BNLを人材教育の場として活用し、新規事業実装のために、どのような活動をされているかについてお話して頂きました。

1.ビジネスアイデアの概要

Build New Local(BNL)の2021年度アイデアコンテストで紀伊民報がエントリーした「GIGAスクール・地域学習・探究学習を対象としたデジタル教材と情報共有ツール」が優秀賞をいただきました。現在、実装に向けてのシステム開発や教育現場へのアプローチを進めています。事業の概要と進捗状況を報告します。

同事業は、2022年度から始まった高校の「探究学習」に対応して、新聞社の持つ記事データベースと、教育事業で実績のあるベネッセの学習教材「探究ナビ」をセットで販売するものです。国立国会図書館が中心になって運営している学術データベース「ジャパンサーチ」(無償)も活用します。

生徒たちがまとめた学習の成果物(パワーポイント、ワードファイル、画像など)を投稿型のデータベースに格納し、ウェブサイト「みんなの学習ひろば」で公開します。データベースへの投稿や公開は教材の導入にかかわらず無料で利用できるようにします。また、格納された情報はオープンデータとして、各新聞社が自由に活用できる仕組みとします。
【探究学習の成果をまとめるシステムのイメージ図】

【探究学習の成果をまとめるシステムのイメージ図】

2.エントリーの背景=若者の県外流出

探究学習に着目した社会的な背景について説明します。
紀伊民報が本社を置く和歌山県田辺市の人口は、2005年の国勢調査で82,499人でしたが、15年後の2020年には69,870人まで減少しました。少子高齢化による自然減に加えて、若者の県外流出が止まりません。

和歌山県教育委員会によると、県内の高校卒業生の大学進学率は5割を超えますが、その8割は県外の大学に進みます。さらに、高校を卒業して就職する生徒のうちおよそ2割は県外を志望します。それらを合わせると、高校卒業生のほぼ半数が古里を離れることになります。

一度県外に出た若者はなかなか戻ってきません。県外に進学した大学生のUターン就職は4割にとどまり、また、和歌山県出身で東京圏に住む18〜39歳へのアンケート調査では「古里に戻りたくない」と考えている人が半数近くを占めます。

探究学習の指導要領には「探究の問いは実社会や実生活と自己との関わりから見出すこと」とあります。そこで私たちは(1)地域課題を解決するための人材育成(2)地域を理解することによる古里愛の醸成(3)教育分野で新聞記事(新聞社が集めた情報)を活用してもらう、という3つの目標を設定しました。古里の課題を知ることは、古里の良さを知ることでもあり、若者定着の一助になるものと考えています。
【和歌山県田辺市の人口構成図。20代以下の人口が極端に少ない】

【和歌山県田辺市の人口構成図。20代以下の人口が極端に少ない】

出典:統計ダッシュボード(https://dashboard.e-stat.go.jp/

3.BNLを人材教育の場に

BNLの事業提案を受けて最初に考えたのは「社内の人材教育に役立てよう」ということです。新聞社は大小を問わずデジタル化の変革の中で厳しい状況を迎えています。紀伊民報は創刊110年という歴史がありますが、発行部数は30,000部、社員80人の小さな新聞社です。新しい時代に対応した人材教育を丹念にする余裕はありません。

アイデアコンテストへの参加は結果の成否よりも、新しいビジネスに対する社員の関心を高め、同時にビジネスを組み立てるためのノウハウを学ぶことが目的でした。

BNL実行委員会を構成する地域新聞マルチメディアネットワーク協議会には弊社マルチメディア事業部が参加していますが、今回のコンテストには編集局、営業部、販売部からも参加者を募り、各部門それぞれがエントリーに向けた企画案を持ち寄りました。
特に重視したのは、アイデアを組み立てるまでのプロセスです。新聞社の日常業務は常に締め切りに追われ、新しいビジネスアイデアを生み出す余裕がないのが事情です。また、仮に一部の部署や個人が新規ビジネスの卵を抱えていたとしても、それを実現可能なプランに昇華させるチャンスはあまりありません。

エントリーに向けた一連のプログラムで、オンラインセミナーやDXアイデアソンを受講し、さらに、ビジネスのアイデアを可視化するエントリーシートの作成を指導していただいたことは、社員にとって大きな刺激となりました。
【紀伊民報本社(和歌山県田辺市)】

【紀伊民報本社(和歌山県田辺市)】

4.実装に向けて聞き取り調査

ビジネスアイデアの実装に当たって最初にしたのは、地元6高校からの聞き取り調査です。そこで分かったことは、探究学習で最も大切な要素とされている「課題の設定」(プロセス)を意識した学校がほとんどないということです。

そこで聞き取りを踏まえて、探究学習に熱心に取り組んでいる県立南部高校(みなべ町)をモデル校と位置付け、学習教材「探究ナビ」と紀伊民報電子版を無償で提供しました。カリキュラムの組み立てに当たっては、1学年を担当する先生方とベネッセの担当者によるオンラインミーティングも設定し、教材への理解を深めました。

また10月29日には、和歌山県情報化推進協議会と紀伊民報の共催で、高校教員を対象にした地域学習セミナー「公開データを活用した地域連携の在り方を考える」を開催します。会場での対面とオンラインのハイブリッド開催です。講師には、和歌山県データ利活用推進センター長や授業デザイン研究所代表などを予定。地元4高校から地域連携の実践事例を発表してもらいます。

これらの知見を踏まえて、来年度に向けての事業展開をさらに具体的なものに仕上げる予定です。
【地域連携の実践事例をオンラインで発表する高校生(2022年8月)】

【地域連携の実践事例をオンラインで発表する高校生(2022年8月)】

5.システムの概要

学習成果を発表する場「みんなの学習ひろば」を実装するため7月上旬、社外の2社にシステムの開発を発注しました。11月末に完成する予定です。

基幹となるデータベースは、生徒がパワーポイントのスライドやワードの文書、ポスター(画像)などにまとめた資料を格納します。入力はエクセルやスプレッドシートで行いますので、学校単位で大量の情報を一括で管理することができます。情報の修正や削除も、シート上で行い、アップロードするだけなので簡単です。入力に当たって都道府県名、年度、学校名、テーマなどを付記することで検索を容易にします。

サイトの表示部分はJSONで出力します。格納した学習成果はオープンデータとして公開しますので、さまざまなサイトに出力・表示することができます。

一方で、学習成果をオープンデータとして扱うことで課題も出てきます。学校内での発表ではあまり問題にならなかった画像や資料、文章の引用・転載の線引きです。教材の提供とともに、著作権に関する情報提供も必要だと考えています。
【「みんなの学習ひろば」のサイトイメージ】

【「みんなの学習ひろば」のサイトイメージ】

文責:紀伊民報マルチメディア事業部